Title: 神経活性化合物の開発を可能にしたsp3骨格のハイブリッド戦略

URL: https://doi.org/10.5059/yukigoseikyokaishi.78.292

本論文の構成

  1. イオンチャネル型グルタミン酸受容体 (iGluR)
  2. iGluRの既知リガンド
  3. リガンド候補化合物開発の考え方と私たちの戦略(ハイブリッド戦略)
  4. 酢酸ビニルを交差メタセシス基質に用いるドミノメタセシスの開発と、それを用いたハイブリッド化合物12種の合成
  5. 構造活性相関と不斉合成、AMPA受容体との相互作用
  6. C環の構造多様性獲得のためのPrins-Ritter反応
  7. 今後の展望

イオンチャネル型グルタミン酸受容体 (iGluR) は中枢神経系シナプスにあって、興奮性神経伝達の要である。内在性のリガンドはグルタミン酸であるが、さまざまな調節薬が開発され、てんかんや鬱病、アルツハイマー病などの神経疾患に対する薬物療法に用いられてきた。天然からはカイニン酸、ダイシハーベイン、アクロメリン酸などグルタミン酸構造を含むiGluRアゴニストが見いだされてきている。

本論文では、我々が行っている、人工化合物の開発研究についてまとめて紹介した。大元のアイディアは、カイニン酸とダイシハーベインをハイブリッド化することによって、これらの天然物にはない機能が獲得できないか、というものであった。

そこで以下に示す12化合物を多成分縮合反応やドミノ型反応を用いる経路で合成したところ、その全てがマウス脳室内投与にて活性を示した。

中でも、抑制性の活性を示す化合物IKM–159について合成研究を進め、その標的がAMPA型受容体であることや、(2R)体が活性であることを明らかにした。さらに構造生物学的な研究を行った。

活性を強める、あるいはサブタイプ選択性を高める目的で、Prins–Ritter多成分縮合反応による類縁体合成も試みた。

 

有機合成化学は、自由な発想で化合物をデザインし、それを実際に合成できるところに魅力のひとつがあると考えている。この総合論文はそれが伝えられるよう執筆した。

参考文献

  1. Chiba, M.; Ishikawa, Y.; Sakai, R.; Oikawa, M., Three-Component, Diastereoselective Prins–Ritter Reaction for cis-Fused 4-Amidotetrahydropyrans toward a Precursor for Possible Neuronal Receptor Ligands. ACS Combinatorial Science 2016, 18 (7), 399-404.
  2. Juknaitė, L.; Sugamata, Y.; Tokiwa, K.; Ishikawa, Y.; Takamizawa, S.; Eng, A.; Sakai, R.; Pickering, D. S.; Frydenvang, K.; Swanson, G. T.; Kastrup, J. S.; Oikawa, M., Studies on an (S)-2-Amino-3-(3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazolyl)propionic Acid (AMPA) Receptor Antagonist IKM-159: Asymmetric Synthesis, Neuroactivity, and Structural Characterization. Journal of Medicinal Chemistry 2013, 56 (6), 2283–2293.
  3. Oikawa, M.; Kasori, Y.; Katayama, L.; Murakami, E.; Oikawa, Y.; Ishikawa, Y., Biology- and diversity-oriented domino reactions for synthesis of AMPA receptor antagonist IKM-159 and analogs. Synthesis 2013, 45, 3106-3117.
  4. Gill, M. B.; Frausto, S.; Ikoma, M.; Sasaki, M.; Oikawa, M.; Sakai, R.; Swanson, G. T., A series of structurally novel heterotricyclic alpha-amino-3-hydroxyl-5-methyl-4-isoxazole-propionate receptor-selective antagonists. British Journal of Pharmacology 2010, 160 (6), 1417-1429.
  5. Oikawa, M.; Ikoma, M.; Sasaki, M.; Gill, M. B.; Swanson, G. T.; Shimamoto, K.; Sakai, R., Regioselective Domino Metathesis of Unsymmetrical 7-Oxanorbornenes with Electron-rich Vinyl Acetate toward Biologically Active Glutamate Analogues. Eur. J. Org. Chem. 2009, 2009 (32), 5531-5548.