Studies on synthesis and biological function of aculeine B, a peptide–polyamine hybrid marine toxin

Aculeine B (ACU-B, Fig.1)は、沖縄県産の海綿から単離されたペプチド-ポリアミン複合型化合物で、細胞毒性およびマウス毒性を示し、新規抗がん剤やドラッグデリバリーなどへの応用が期待されている。Protoaculeine B (pACU-B)は、ACU-BのN末端アミノ酸であり、その特徴的な構造からaculeine類の活性に大きく寄与していると考えられている。我々は、このpACU-BならびにACU-Bの類縁体を合成し、生物活性評価を通してACU-Bの作用機構を解明することを目的として合成研究を行っている。pACU-Bは三環性骨格構造とLCPA部により構成されており、それぞれをフラグメントとして別々に合成し、それらをカップリングさせることで合成が達成できると考えた。

ポリアミンライブラリーの構築

まずポリアミン部分の鎖長と生物活性の関係を調べるため、ライブラリー合成に着手した。9種類のアルコールフラグメントと10種類のNsアミンフラグメントをそれぞれ合成し、いくつかの組み合わせで光延反応を行った結果、進行する組み合わせが12種類、全く進行しない組み合わせが7種類確認された。反応が進行しない原因については基質の立体障害や、ポリアミンが会合体を形成することで反応部位が露出していない可能性が示唆されている。この問題を解決するために、ヨウ化物を用いたカップリングが有効であろうと考えている。

pACU-Bおよび類縁体の全合成

先行研究で合成された三環性骨格3に対し、3量体ポリアミン8と12量体ポリアミン7をそれぞれカップリングさせ、完全保護体9, 10を合成した。次に、得られた9を用いて脱保護条件の検討を行った。Alloc基、Ns基の脱保護については問題なく進行したが、Boc基の脱保護において、反応後の濃縮の際に基質が分解してしまうという問題が生じた。この問題に対し、凍結乾燥機を用いて温和な条件で濃縮する工夫により、基質の分解を防ぐことに成功した。続くメチルエステルの加水分解については、時間を要するものの簡便に反応が進行し、3量体ポリアミンを有する類縁体14を得ることができた。脱保護条件を決定することができたので、次に10に対し段階的な脱保護を行うことで天然物に相当する15の合成を目指した。Alloc基、Ns基、Boc基の脱保護は良好に進行した。メチルエステルの加水分解については、反応速度は非常に遅いものの進行することが確認できたが、濃縮の際にガラス器具を用いると、LCPA部がガラス表面に吸着しサンプリングが困難になることが判明した。そこで、濃縮の際にポリプロピレン製のチューブを用いることで化合物を吸着させることなく回収することに成功し、天然物と同様の12量体ポリアミンを有する化合物15の初めての全合成を達成した。

ACU-Bの構造活性相関

ACU-BはLCPA部と細胞表面分子との相互作用で細胞膜に結合し、 ペプチド部(AcuPep)の作用で膜の安定性に影響を及ぼすことで生物活性を示すと考えられている。pACU-Bの三環性骨格は特徴的な構造ではあるが、このメカニズムを考慮するとACU-Bの活性への影響は低いと考えられる。そこでACU-Bの構造活性相関を調べるにあたり、三環性骨格を介さず直接AcuPepとLCPA部を結合させた化合物を合成し、活性評価を行うことを計画した。Spermineを出発原料とし、3段階でLCPA部にあたる保護スペルミン16を合成した(未発表のため構造式は非公開)。この保護スペルミン16に対し、無水コハク酸17を反応させることで一本鎖ポリアミンカルボン酸18を、また一部保護されたtrimesic acid 19を反応させることで二本鎖ポリアミンカルボン酸20を合成した。

合成したリンカー18, 20は共同研究者がAcuPep合成樹脂に導入し、さらに樹脂からの切り出し、脱保護、フォールディングにより人工コンジュゲート21, 22を得た。これらの細胞毒性と神経活性についての生物評価試験を共同研究者が実施し、これまでの評価試験の結果との比較を行った(結果については、未発表のため非公開)。

まとめ

ポリアミンライブラリーの構築については確実にフラグメント同士をカップリングすることができる手法を確立することが課題となっている。これについては、光延カップリング反応の代わりに、ヨウ化物を用いたカップリング反応を検討する。

pACU-Bの全合成については、本研究で達成することができた。まだ0.1-1.0 mg単位での小スケールな実験しか行っていないため、スケールを大きくしたときに再現性をとることができるか検証する必要がある。

ACU-Bの構造活性相関については、LCPA部の活性への関与について大きな情報を得ることができたと考える。今後は各種類縁体を活用しACU-Bの活性メカニズムの解明を目指したい。

参考文献

  1. Matsunaga, S.; Jimbo, M.; Gill, M. B.; Lash-Van Wyhe, L. L.; Murata, M.; Nonomura, K. i.; Swanson, G. T.; Sakai, R. ChemBioChem 2011, 12, 2191−2200.
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