2016年6月の有機化学セミナー、二回目は、松尾一郎博士をお招きして催します。どうぞよろしくお願いいたします。開催概要は以下のとおりです。
このセミナーは大学院講義「物質システム科学序説」の一部として開催しますが、参加に制限はありません。ご参加をどうぞよろしくお願いいたします。
(セミナー開催概要)
タイトル:『糖の化学合成を通してできること –糖鎖機能の解明から創薬に向けた取り組み–』
講師:松尾 一郎 博士(群馬大学大学院理工学府 分子科学部門)
日時:2016年6月27日(月)14:30〜17:40
場所 : 本校舎209教室
糖と糖がつながった生体高分子である糖鎖は,核酸やタンパク質と同様に生命情報を伝える「第三の生命鎖」と呼ばれています。核酸やタンパク質が直鎖状の高分子であるのに対して,糖鎖は分岐構造を持っていることが特徴で,その分岐構造が作りだす複雑な高次構造によって生命情報を伝えています。糖鎖の持つ生命現象を明らかにするためには,構造が均一な糖鎖サンプルが必要ですが,核酸やタンパク質(ペプチド)のように自動合成法も確立されておらず,サンプルを自由に手にできないことが糖鎖機能解明研究の妨げとなっています。
松尾先生の研究室では,糖鎖や糖が関連する化合物を作りだし,それらを分子プローブとして,自ら創出した化合物で糖鎖の持つ生命現象を解明する取り組みを展開しています。とは言え、糖鎖合成の現場は,糖と糖をつなげるグリコシル化反応と水酸基やアミノ基などの保護–脱保護反応を繰り返す,ときには反応収率が数パーセント,バーコードのようなTLCから目的の化合物を見極め,単離する職人技も少し必要で,とにかく手を動かせば誰でも合成できるが長い時間が必要,という状況です。
本講義では,松尾先生の研究室で進められている,前立腺がん関連糖鎖の合成や軸索伸張に関与する糖脂質の合成,希少疾患治療薬探索のための糖鎖分子プローブの合成や糖鎖を介したタンパク質の修飾技術の確立に向けた取り組みについて,数百グラムの原料合成から立体選択的なグリコシル化反応の開発,実験上の小さな失敗から大きな成功まで,実例を示しながらご紹介をいただきます。
連絡先: 物質科学コース 創薬有機化学研究室
及川雅人(内線2403)
(2016年6月28日追記)
キャリアパスのお話、研究のお話、その他、いろいろお聞かせいただき、大いに刺激を受けました。松尾先生、ありがとうございました。