9月1日付けで入江樂(いりえらく)博士が助教として着任しました。入江助教のこれまでの研究活動は以下の通りです。

これまでの主な研究活動

1. ニュージーランドで発生した赤潮の有毒成分の単離と構造決定(学部~修士課程)
東京大学理学部 天然物化学研究室

海洋環境の悪化による赤潮の発生は、漁業被害や健康被害を引き起こし、各産業や公衆衛生において大きな問題となっています。しかし赤潮の有毒成分の多くは複雑な化学構造を有しているため、これまでにごく一部の成分の構造しか明らかにされていません。そのような中1998年にニュージーランドのウェリントン湾で、新種の渦鞭毛藻による大規模な赤潮が発生しました。私たちはその全容解明と将来的な被害の防止のため、培養液に含まれる有毒成分(梯子状ポリエーテル化合物)を網羅的に単離・構造決定し、毒性の評価を行いました。

  • Brevisulcatic acidsの単離と構造決定
    • R. Suzuki, R. Irie, Y. Harntaweesup, K. Tachibana, P. T. Holland, D. T. Harwood, F. Shi, V.  Beuzenberg, Y. Itoh, S. Pascal, P. J. B. Edwards, M. Satake, Org. Lett. 2014, 16, 5850 (DOI: 10.1021/ol502700h).
    • R. Irie, R. Suzuki, K. Tachibana, P. T. Holland, D. T. Harwood, F. Shi, P. McNabb, V.  Beuzenberg, F. Hayashi, H. Zhang, M. Satake, Heterocycles 2016, 92, 45 (DOI: 10.3987/COM-15-13332).

2. カイメン由来の細胞毒性物質ポエシラストリン類の構造解析(博士後期課程~)
東京大学農学部 水圏天然物化学研究室

ポエシラストリン(Poecillastrin)類は、膜タンパク質V-ATPaseの阻害によってがん細胞に対する強力な毒性を示し、分子ツールや創薬のリード化合物として有望なマクロライド化合物です。しかし深海性のカイメンからしか得られない微量成分であることに加え、25個の不斉炭素を有し複雑に官能基化されていることから、平面構造のみの報告にとどまっていました。

私たちは培養細胞の形態変化を指標とする活性試験を用いた海洋天然物の探索によってポエシラストリン類を得たため、その完全な構造決定を目標に研究を行いました。

  • Poecillastrin Cのアミノ酸残基の絶対配置の決定と結合様式の訂正
    • R. Irie, K. Takada, Y. Ise, S. Ohtsuka, S. Okada, K. R. Gustafson, S. Matsunaga, Org. Lett. 2017, 19, 5395 (DOI: 10.1021/acs.orglett.7b02835).
  • 新規類縁体の単離と構造決定
    • R. Irie, Y. Hitora, S. Okada, K. Takada, S. Matsunaga, Tetrahedron 2018, 74, 1430 (DOI: 10.1016/j.tet.2018.01.037).
    • R. Suo, K. Takada, R. Irie, R. Watanabe, T. Suzuki, Y. Ise, S. Ohtsuka, S. Okada, S. Matsunaga, J. Nat. Prod. 2018, 81, 1295 (DOI: 10.1021/acs.jnatprod.8b00180).
  • 全立体化学の解析(現在進行中)

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