Dysibetaine CPb (DBCPb, 2) は2004年にミクロネシア産海綿Lendenfeldia chondrodesより単離された、分子内に四級アンモニウムとカルボキシ基を有するベタイン化合物です。この海綿からはイオンチャネル型グルタミン酸受容体の強力な作動薬dysiherbaineが単離されており、このDBCPbおよびその構造類縁体も中枢神経系に作用すると期待されていますが、天然供給量が乏しく、薬理学研究は全く進んでいません。
本研究ではその状況を改善し、新たな神経生理活性化合物を開発するため、そのN-desmethyl類縁体1の合成を行いました。このN-desmethyl類縁体はγ-aminobutyric acid (GABA) を部分構造に含んでおり、抑制性シナプスのGABA受容体に作用するであろうと具体的に期待しました。
この合成は、硫黄イリドを用いるシクロプロパン環形成と、それに引き続く有機触媒による環状酸無水物の不斉メタノリシスを鍵反応として行いました。全14段階で、収率は0.37%です。この合成はDBCPb関連化合物の初めての人工化学合成です。この合成法開拓により、DBCPbのさまざまな構造類縁体が合成化学的に供給可能になりました。
この研究成果は、2015年のChemistry Letters誌に掲載されました。
DOI: 10.1246/cl.141049